日本銀行 時系列統計データ検索サイト API(FM08) ・ /admin/hist「円安になると日本株は上がる」——最もよく語られる関係のひとつです。 これを 1999年からの27年・6,777営業日で測りました。 ただし素直に「同じ日のドル円と日経平均」を突き合わせると答えを間違えます。 ドル円の日次変動の約7割は、東証が開く前の夜に起きているからです。 そこで1日を「東証が閉じている夜」と「東京の立会時間」に割って測りました。 指標を公開する前に必ず検証するという恒久ルールにもとづく測定です。
結論東証の立会時間は 9:00〜15:30、為替は24時間動きます。「同じ日のドル円と日経平均」を突き合わせると、 東証が閉まっている時間の為替変動まで一緒に測ってしまいます。 それがどれくらいの割合かを、日本銀行が公表している東京市場の 9時時点と 17時時点のスポット・レートで測りました。
| 区間 | n | σ | 分散に占める割合 |
|---|---|---|---|
| 前日17:00 → 当日09:00(東証が閉じている夜) | 6,781 | 0.5220% | 69.8% |
| 09:00 → 17:00(東京の立会時間+引け後1.5時間) | 6,781 | 0.3553% | 32.4% |
| 24時間(17:00 → 17:00) | 6,781 | 0.6246% | 100% |
ドル円の日次変動の約7割は、東証が開く前に起きています。 夜と日中の相関は −0.023 でほぼ独立なので、この2つを同じ式に入れても互いに邪魔しません。 つまり「同じ日の連動」として1つの数字で語られてきたものは、 寄り付き前に判明している分と立会時間中に一緒に動いている分という、 性質のまったく違う2つの合成でした。
為替は日本銀行の時系列統計(東京市場 ドル・円 スポット 9時時点/17時時点)を使いました。 日次で朝と夕方の2時点を公表しているのは日銀だけで、これが無いと上の分解ができません。 他の経路(欧州中央銀行・米連邦準備制度・銀行の対顧客相場など)も実際に取得して比較しましたが、 基準となる時刻が東京の1日とずれます。たとえば米連邦準備制度の値はニューヨーク正午 (日本時間の翌日未明)が基準のため、その日次変化は東京の1日をまたぎます。
株価は日経平均の日足で、始値と終値の両方を使って1日を2つに割りました。
| 記号 | 定義 | 意味 |
|---|---|---|
| 夜の為替 | 100 × ln( 9時[D] ÷ 17時[D−1] ) | 東証が閉じている間の変化。寄り付き前に判明している |
| 日中の為替 | 100 × ln( 17時[D] ÷ 9時[D] ) | 立会時間中の変化(+引け後1.5時間。→ 10章) |
| 寄りの変化 | 100 × ln( 始値[D] ÷ 終値[D−1] ) | 株価側の夜ぶん |
| 日中の変化 | 100 × ln( 終値[D] ÷ 始値[D] ) | 株価側の立会時間ぶん |
すべて対数差分(変化率)で測り、水準どうしの回帰は行っていません。 為替も株価も水準はトレンドを持つため、水準どうしを回帰すると見せかけの関係が出ます。
連休の扱いも測りました。1999年以降、平日なのに東証が休場だった日は 438日あり、 そのうち 95.4% で為替は動いています。最長は2019年の改元10連休で 6営業日連続。 日銀の系列は最初から東証の営業日に載っているため連休は夜の変数に自動的に吸収されますが、 またいだ日数が増えると夜の変動は大きくなります(普通の夜 σ 0.483% → 3日以上の連休 σ 1.062%)。 そのためまたいだ暦日数を統制変数として全ての式に入れています。
係数レベルで 10本の検定を回しました。判定は当サイトの基準どおり、 2つの方法の両方で |t| ≥ 2 です。片方だけ越えたものは分析の選び方に依存しているとみなして採りません。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| Newey-West(ラグ5) | 残差の系列相関と不均一分散を補正する |
| 暦月クラスタ | 同じ月の観測をひとかたまりとして扱い直す(333クラスタ) |
この2つが同じ計算に退化していないかを、実際に標準誤差を並べて確かめました。 当サイトは過去に「2つの方法で確認」と名乗った検定が、定義上まったく同じ計算になっていた例を踏んでいます。 今回は2つの標準誤差が別の値になっており、退化は起きていません (退化した場合はブロックブートストラップに差し替える契約を、結果を見る前に決めてありました)。
10本回している以上、偶然でも |t| ≥ 2 は 0.5本前後出ます。この本数を念頭に読んでください。
| 検定 | 係数 | t(Newey-West) | t(暦月クラスタ) | 最小検出可能効果 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日中の変化 ← 日中の為替(主要仮説) | +0.747 | +10.47 | +9.07 | ±0.165 | 基準を満たす |
| 寄りの変化 ← 夜の為替 | +0.576 | +24.12 | +16.98 | ±0.068 | 基準を満たす |
| 日中の変化 ← 夜の為替 | +0.335 | +5.59 | +4.03 | ±0.166 | 基準を満たす |
| 日中の変化 ← 日中の為替(米国株を統制) | +0.786 | +10.93 | +8.66 | ±0.182 | 基準を満たす |
| 日中の変化 ← 日中のユーロ円 | +0.671 | +9.72 | +8.65 | ±0.155 | 基準を満たす |
立会時間中の連動は明確です。ドル円が1%円安に動いた日、日経平均は平均して +0.75% 動いています。 前営業日の米国株(S&P500・NASDAQ・SOX)を統制しても +0.79% とほとんど変わらず、 米国株の値動きだけで説明できるものではありません。ユーロ円でも同じ向き・同じ桁の関係が出ます。
3行目も見てください。夜のあいだの為替は、寄り値に反映された後も、立会時間中に効き続けています(+0.335)。 つまり夜の為替変化は寄り付きで一度に織り込まれるのではなく、その日の取引時間を通じて反映されていきます。
同じ「1%の為替変動」でも、向きによって連動の強さが違うかを測りました。 日中の為替変化を符号で分け、傾きが等しいかを検定しています。
| 向き | 係数 | 読み方 |
|---|---|---|
| 円高方向(ドル円が下がった日) | +1.066 | 1%の円高に対し日経平均は平均 −1.07% |
| 円安方向(ドル円が上がった日) | +0.421 | 1%の円安に対し日経平均は平均 +0.42% |
| 差の検定 | −0.645 | t = −3.83(Newey-West)/ −4.18(暦月クラスタ)・最小検出可能効果 ±0.337 → 基準を満たす |
円高の日に下げる大きさは、円安の日に上げる大きさの約2.5倍です。 「円安になれば株が上がる」という言い方と、「円高になると株が下がる」という言い方は、 同じ関係を裏返しに述べたものとして扱われがちですが、データ上は同じ強さではありません。
なぜそうなるのかは、この検証では分かりません。 急激な円高がリスク回避の局面で起きやすいこと(つまり為替と株価が共通の要因で同時に動くこと)が 考えられますが、それを確かめる設計にはなっていません。ここで示せるのは、 向きによって連動の強さが違うという事実だけです。
ここまでの数字は27年をひとまとめにした平均です。250営業日の窓で推定し直すと、係数は大きく動きます。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 窓の数 | 6,528 |
| 係数が正だった窓の割合 | 84.9% |
| 中央値 | +0.752 |
| 下位1割 / 上位1割 | −0.295 / +1.802 |
| 最小 | −0.930(窓の末尾 2001-08-13) |
| 最大 | +2.201(窓の末尾 2014-10-24) |
符号が反転する期間があります。係数が負だった窓が15%あり、下位1割は −0.29 です。 「円安なら株高」が成り立たない、あるいは逆に動いていた1年間が、27年のなかに繰り返し現れます。
最大値と最小値の差は 3.1 です。これは同じ1%の為替変動に対する日経平均の反応が、 時期によって「−0.93%」から「+2.20%」まで変わったということです。 この幅を1つの平均値に潰して「日本株の為替感応度は◯」と述べることに、意味はありません。
だからこの記事は、運営者から持ち込まれた「過去30年の為替感応度を測りたい」という問いに対して、 単一の数字を答えとして出しません。答えは「単一の数字は存在せず、時期によって符号すら変わる」です。
当日の為替変化から翌営業日の日経平均を説明できるかを測りました。
| 説明変数 | 係数 | t(Newey-West) | t(暦月クラスタ) | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 夜の為替 → 翌営業日の日経 | +0.066 | +1.51 | +1.45 | 基準未満 |
| 日中の為替 → 翌営業日の日経 | +0.114 | +1.53 | +1.72 | 基準未満 |
係数はゼロと区別できません。あらかじめ決めた停止規則により、 方向に関する表示は画面に一切載せません。 当サイトが指数の方向を当てにいって基準を満たさなかったのは、 Breadth Gap・類似局面・ σバンド・月足の反発に続いてこれで5回目です。
この検定には仕掛けがあります。為替には自己相関があり(前日との相関 −0.049、目安の2標準誤差 ±0.024)、 同時の連動が存在する以上、それだけで「翌日を説明する係数」は機械的に立ちます。 そこで「ゼロと違うか」ではなく「機械的に見込まれる値と違うか」で判定する契約を、 結果を見る前に事前登録へ書き加えてありました。実際に合成データで、 真の予測力がゼロでも生の t が −2.71 になることを確認しています。
その基準で見ると、夜の為替の係数は見込みを超えます(見込み −0.046 に対し実測 +0.066、 差の t = +2.54 / +2.44 で両方の方法が基準を満たす)。しかしこれを方向の予測力とは書きません。理由は3つです。
さらに、事前登録の条項の書き方そのものに不備がありました。 「ゼロと比べない/見込みと比べる」という文言は、 「見込みを超えたら方向の予測力あり」とも読めてしまいます。 私はこの条項を偽陽性を防ぐ安全弁のつもりで書きましたが、 係数がゼロ近傍のときには逆向きに働く書き方になっていました。 条項は凍結してあるため後から書き換えず、この不備をここに開示したうえで、 保守的な読み方(方向は主張しない)を採ります。
この検証は「いつの為替」と「いつの株価」を突き合わせるかが結論を左右します。 そこで2つの確認を行いました。どちらも検定10本には数えません(設計の妥当性を否定しうるだけの検査です)。
| 確認 | 期待 | 実測 |
|---|---|---|
| プラセボ: 寄りの変化 ← 日中の為替 | 日中の為替は寄り値より後に起きるので、説明できないはず | 係数 −0.045・t = −1.70 / −1.67 → ゼロと区別できない |
| 内部整合: 夜の為替の係数 | 「寄り」と「日中」に分けた係数の和が、分けない場合と近いはず | 0.576 + 0.335 = 0.910 / 分けない場合 0.922 |
プラセボが通ったこと(未来の為替が過去の寄り値を説明しないこと)は、 時点の揃え方に間違いがないことの直接の証拠です。もしここで係数が立っていたら、 本文の数字はすべて疑わしいものになっていました。
あわせて、取得した日経平均の日足を当サイトが毎営業日記録している日次騰落率と504日ぶん突き合わせ、 最大差 0.0059pt で一致することを確認しています。
FXERD01(東京市場 ドル・円 スポット 9時時点)と
FXERD04(同 17時時点)を取得。ユーロ円は
FXERD31 / FXERD34(ユーロ・ドル)との積で合成
(日本銀行自身が「ドル/円とユーロ/ドルから算出することが可能です」と案内しています)。
ユーロ・ドル17時時点は1998年12月30日以前がドル/マルクなので、1999年1月4日から使います。/admin/hist(管理用)経由で取得このサービスは、日本銀行時系列統計データ検索サイトのAPI機能を使用しています。 サービスの内容は日本銀行によって保証されたものではありません。
この検証は、結果を1つも見る前に設計を凍結してから実行しました (検定10本・主要仮説・判定基準・停止規則・限界を固定し、内容のハッシュ値を記録しています)。 そのうえで開示すべきことが2つあります。